テンポラリーラブ物語
「どうした、疲れたか?」

 ジンジャがなゆみの視線に気が付いて、声を掛けた。

 なゆみは気を取り直して、いつもらしく振る舞う。

「今日も楽しかったね。今度はいつのクラス取ってるの?」

「今後の予定は未定かな」

「ジンジャ、また電話していいかな」

「うん、いいよ」

 あっさりと許可を貰ったが、なゆみは素直に喜べなかった。

 そうしているうちにジンジャは先に教室から出て行った。

 それがユカリを追いかけて行ったように見え、なゆみは一瞬ショックを感じて体が動かない。

「じゃ、帰るか」

 坂井が筆記用具を鞄に直しこんで立ち上がり、それではっとしてなゆみも椅子から立ち上がって慌てて坂井の後を付いていく。

 部屋を出たところで、ユカリが受付で次の授業の予約を入れているところを目にした。

 それが済むとさっさと出て行ったが、ジンジャは受付付近でその様子を見ていたようだった。

 胸騒ぎを感じたなゆみは、体が急に縛られてジンジャの側に近寄りがたくなってしまう。

 落ち着こうと何度も息を吸っては吐くが、動揺は収まらなかった。

 その間、ジンジャが坂井と何か話している。

 その後ジンジャは、おもむろになゆみに視線を移した。

 なゆみは無理に笑顔を作ってジンジャに近寄るも、どこか歓迎しない焦りを見たように思った。

「俺、今日用事あるから、先に帰るな。じゃーな、タフク」

「えっ?」

 驚いている間にジンジャはさっさといってしまい、碌に挨拶もできなかった。

 用事ってなんだろう。

 授業を一緒に取った後、ジンジャが先に一人だけ帰ることなど今までなかった。

 なゆみは受付で次の予約を取ろうと順番に並んだ。

 混み合う中で俯き、泣きそうな程に瞳は潤んでいた。

 ジンジャはユカリと付き合ってる。

 そしてこの後会うんだ。

 はっきりとそういう気がしていた。
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