別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
出会った時の記憶が蘇るーー



「あの、これ、忘れてますよ」

後ろから遠慮がちにかけられた声に、私は立ち止まり振り返った。

そこに居たのはボサボサ頭のメガネの男の人。
手にはスーパーの袋を持っていた。袋からは大根の葉が少し覗いている。

……それ、私のだ!

「す、すみません……」

忘れ物が買ったばかりの食材だなんて、恥かしい。

本を借りると荷物が重くなるから、いつもスーパーで買い物をしてから図書館に来ている。
今日は凄く好みの恋愛小説を見つけて夢中で読んでしまったから、買い物袋の存在を忘れてしまったようだ。

空想恋愛世界にいた頭は、完全に覚醒した。

ものすごい気まずさを感じながら、おずおずと手を差し出し買い物袋を受け取る。大根の他にゴロッとしたキャベツとモヤシが見える……安いものばっかり。

この人も見たんだろうな。
一層恥ずかしくなりながらも頭を下げる。

「……ありがとうございました」

「いえ、本がとても好きなんですね」

穏やかな声に誘われる様に顔を上げると、優しい屈託の無い笑顔が見えた。

この人……なんて優しい顔で笑うんだろう。

目の前の人は、ボサボサ頭にダボっとしたトレーナーと言う素敵要素は全く見当たらない様な人だ。

それなのに、なぜだか惹かれて目が離せなくなった。
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