別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「ホウジョウカナト……え? ちょっと意味が分からないんだけど」

誰、それ?

私にとっては、全く知らない他人の名前だ。

ついさっきまで肌を合わせていた人のものじゃない。

「こんな時に変な冗談言わないでよ……タチが悪いよ?」

そう言いながらも、背筋が冷たくなるのを止められない。

顔を強張らせる私の前で、奏人はベッドから降りると自分の財布を手に取り中から何かを取り出した。

「冗談なんかじゃないんだ。これを見て」

差し出されたのは、免許証だった。

受け取った私は、免許証を確認して息をのんだ。

名前の欄には、【北条奏人】と書かれていたから。



それからはもう何も考えられず、虚ろな気持ちで奏人の声を聞いていた。

いろいろ言っていたけど、私の頭に入って来たのは、免許証は本物で、名前は間違いなく北条奏人。

年は偽っていなくて、二十八才だと言う事。

住所は嘘。私が通っていたアパートは仮の住まいで本宅は別に有るそうだ。

家業を手伝っていると言っていたのも半分嘘で、親は海外に工場が有るような大きな会社の社長らしい。

本当に笑っちゃうくらい何もかも嘘。

実家が貧乏でお金が無いんだって言ってたのに、本当はお金持ちの御曹司だったなんてね。

ああ……私は本当に騙されていたんだ。

誠実だと思っていた奏人に……大好きで誰より信じていた人に。
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