あの先輩が容疑者ですか? 新人ナース鈴の事件簿 
「林さん、報告はまずあなたからお願いね。タカネさんのご家族は何か——ああ、しまった。あなたにまず話してもらってからね」

 と報告が待ちきれないのは所長の原。

「林さんはもうだいぶ「卒業」したお宅がある? 来週訪問車が一台納品になるから、そろそろ一人でも行ってみようか。で運転免許はもう取れたんだっけ」

 と鈴の一人立ちが待ちきれないのは、社長の結見だ。

「あーごめんなさい、社長。次で受かれば仮免です」

 鈴は慎重に答えた。

 そうなのだ。鈴の場合、訪問看護の仕事内容としての一人立ちと、土日・夜間に学生らと枠を取り合って通っている自動車運転の一人立ちが、同時になる予定なのだ。

 看護ケアは慣れてきて手際も良くなり、異常時には気付いて電話相談できるだろうが、一人立ちに関する何もかにもしなきゃいけない感は、ちょっと考えるだけで不安が押し寄せる。看護も、運転も、慣れている人たちには大したことなさそうに見えて、実際新人にとっては命がけだ。

 可能な限り、先延ばしにしたいものだ。
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