あの先輩が容疑者ですか? 新人ナース鈴の事件簿 
「あら結構時間がかかってるのね。曜日で決めて、例えば月水金は定時で帰って教習所に行く? 原さんスケジュール調整してくれる?」

「ああ、それじゃヤマモトさんの朝の血糖測定をお願いしようかな。近いからあなた一人で行けるでしょう。早出して、十六時に上がったら良いんじゃない?」

 週三日早出と教習所か。ハードだな、と思ったことは、鈴も口には出さない。

「えっと、教習所に相談してきますね。夏休みが終わったけど、推薦の子たちかな、夕方は高校生で結構混んでいて」

「へえー、どこも免許禁止じゃなかったかな」

「短大や専門の子たちかもしれないし。まあ実際、卒業して働くってなったら、免許ないと厳しいですからね」


 手を留めて話し始める結見と原の横で、清世が黙々とパソコンに訪問実績を打ち込み、来週の訪問スケジュールや足りない紙書類を次々にプリントアウトしている。

「じゃあ、来週は一週間くらい、私は林さんの運転手と監督に徹しましょうか。夕方の訪問を回してもらえれば、それは一人で行ってきますので」

 クールビューティー清世が、助け舟にもならない助け舟をサラッと出してくれる。そして、こんな一言も。

「運転とケアの一人立ちが被ると、多分焦ってミスしやすいと思うから。早めに一人立ちできるところはしとくと良いよ。あたしと同行してる間は、いざとなったらフォローできるし」

 これだから、清世は鈴の心を掴んで離さない。

「ああ、じゃあそれでお願い。日向さんはケアのほうは問題ないから、林さんの一人立ちまでフォローしてもらって」

「はい」

「あれ? それって、日向さんの研修期間があたし次第ってことですか?」
「まっさか。日向さんは先月で研修終了。林さんの研修は八ヶ月の予定だったから、そろそろラストスパートよ」

「ええっ!」

「じゃあ、あたしはフォローしないってことにしようか。来週はいないものだと思ってやってみてね」

「ええっ! 清世先輩!」

 鈴が悲愴な声を上げても、清世の表情は変わらない。

「林さん、所長とケアマネさんが報告待ってるよ。私、お先に休憩行ってきます」

 清世の優しさは、甘くはないのだ。
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