嘘つきには甘い言葉を
第3章 嘘はつき通せ
翌日は土曜日だったから、大学に行かずに済んで助かった。正直和香に何て言ったらいいのかわからないもの。この前のことで脅されてるなんてもちろん言えないし……もちろん私と水無月隼人は付き合ってるわけでもないんだから。大体水無月隼人が何を考えてるのか、私には全くわからないんだもん。

ぼんやりと考え事をしていた私は、いらついた「コーヒー」という声に慌てて振り返った。お客様だ。バイト中だっていうのに何考えてるの。集中しないと。

「いらっしゃいませ」
張り付けた笑顔が強張った……何でまたここにいるの?!
思わず声が裏返る。
「ほ、ホットコーヒーでよろしいですか?」

昨日の今日だから覚えてるんだろう。同僚たちも興味深そうな視線を向けている。
「あぁ。何時まで?」
「営業時間ですか? 深夜12時までですが」

私の言葉に水無月隼人は大げさにため息をつく。
「馬鹿か。バイトがだよ。」
あぁ、バイトがね。それならそうと言ってくれればと思いながらレジのボタンを押すけれど、よく考えたらそもそも何で私のバイトの時間なんて知りたいの? 
同僚が聞き耳を立てながら、湯気の立つコーヒーをトレイに乗せる。

「380円になります」
時間稼ぎのつもりで言ったけれど、水無月隼人は無表情で私を睨んでる。
答えを聞くまでは手の中の財布を開く気はなさそうだ。うう……怖い。

私は観念して小声で囁いた。
「9時です」
カチャンと音を立てて500円玉が置かれる。水無月隼人は満足げに「上にいるから」と言い放ってトレイを手にした。

平静を装って時計を盗み見ると8時30分。30分後私はどんな顔をして2階に上がればいいんだろう。夜に到着するバスの乗客は早く家に帰って休みたい人ばかりで店内はガランとしているから、残業なんてできそうもない。

「桜の彼氏? すごくかっこいいね。どこで知り合ったの?」コーヒーを運んできた同僚が興味津々な顔で詰め寄ってくるけれど、「ただの知り合い」と私は曖昧にごまかした。

確かに水無月隼人は知り合い、という言葉が一番ぴったりくる。なのにどうして、私は三日も連続でただの知り合いに会ってるの? どうして二日も連続で彼は会いに来るの?

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