嘘つきには甘い言葉を
重い沈黙を破ったのは隼人さんだった。
「桜、アイス食いたいって言ってたよな。買ってくるわ」
答えるよりも早く扉が閉まって、私と龍君は取り残された。

テーブルの上の革の財布が目に入る。アイス買うって、隼人さんの財布ここにあるじゃない。
隼人さんらしくない抜けてる行動。気を使ってくれたのは間違いない。

「ふふっ、財布ここにあるのに。で、どうしたの龍君? とりあえず入ってよ」
玄関で棒立ちしてる龍君に声をかける。
隼人さんがいなくなった扉を見つめていた龍君は、ハッとして振り返った。

「いいんだ。ごめんな、邪魔して。
あのさ、お前、隼人と付き合ってるんだよな……?」
何かを迷ってるみたいに、珍しく龍君の瞳が揺れてる。

一瞬泣きそうな気持ちになったけど、私は気を取り直して微笑んだ。
「そうだよ」

私……嘘、ばっかり……。
「お前たちって、どこで出会ったの? いつから付き合ってんの?」
「……秘密」

どうしたんだろ今日の龍君。出会いなんて答えられるわけはないし、変な事ばかり聞いてくる。ごまかそうとして「とりあえず靴脱げば?」と背を向けて部屋に入るよう促したら、手首を掴まれた。

無意識に心臓が騒がしくなって振り返れない。
一瞬このまま抱きしめられるんじゃないか、なんて考えてしまった私。
「こっち向けよ」龍君の言葉に従うことも出来ない。頬が熱い。

「お前、本当に隼人の事好きなのか……?」
好きじゃなかったら何なの?

私が好きなのは龍君だって打ち明けたら、和香と別れてくれるの?
私を選んでくれるの?……そんなわけないくせに、どうして聞くの。

そんなつもりはなかったのに頬を涙が伝って、私は龍君を睨みつけた。
「好きだよ‼ 私の事好きじゃなくても……私は好きなの。どうしてそんなこと聞くの?」

自分でも自分の気持ちがわからない。私、どうして怒ってるの? 
私が好きなのは……誰なの?
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