嘘つきには甘い言葉を
叩き起こした和香は一気に酔いが覚めたみたいで青白い顔をしてたけど、事情を説明すると「桜ちゃん、ありがとう」と抱きついてきた。

そして「彼氏、やってやるよ」と言ったきり黙ってスマホをいじる彼に話しかける勇気もないままに、10分後汗だくの龍君が現れた。

「本当に、すいませんでした。ほら、和香も謝れよ」
たれ目が印象的な龍君が、珍しく目を釣り上げながら和香の頭をぐいぐい押す。

「すいませんでしたぁ」
か弱い声を出す和香と、額に汗を光らせて謝る龍君に手を振って「全然大丈夫。気にしないで」と早口になる私。

ぼろが出ないうちに帰って欲しい。

「なぁ、桜。彼氏さん紹介してくれよ」
……今、何て……?
張り付けた笑顔が強張る。
この人の名前、聞くの忘れてた。
笑顔でごまかせばなんとかなるよね?
……って、なるわけないっ。
お願いします。助けて下さい。
願いを込めて彼のTシャツを引っ張ると、ぐいっと肩を抱き寄せられた。

え……?
男の人との慣れない距離に、経験浅の心臓は途端に早くなる。

「可愛い。桜緊張しちゃってるんだ。俺は、水無月 隼人。K大の3回生だよ」

可愛い……?
いきなり呼び捨て?
そもそも私、名前教えたっけ……?
混乱する頭で曖昧に首を縦に振る。
頬が熱いから、多分私赤くなってる。

龍君は微笑ましそうにこっちを見て口を開く。
「俺、山田龍之介です。桜とは幼稚園からの幼なじみで。やっと彼氏が出来たかって感じなんです。こいつのこと本当によろしくお願いします」

龍君が真剣に頭を下げてる相手は私の彼氏なんかじゃないんだよ。
本当に私が好きなのは……。

「もちろん。じゃあ桜のことよく知ってるんだね。俺は付き合い始めたばかりだから色々教えて欲しいな。今度一緒に飯でもどう?」

コノヒト、ナニイッテンノ……?

水無月、という人が発した言葉に頭が真白になる。
今度なんて、あるわけないでしょ。
それなのに男二人は意気投合して、素早くSNSの交換なんて始めてる。

私と和香は呆けた顔でその様子を見ていた。

「じゃあ、今晩楽しんで下さい」

明るい龍君の声を残して扉が閉まる。
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