嘘つきには甘い言葉を
……助かった。座り込んだら「大丈夫か?」と店長が駆け寄って来た。
「今の店長だったんですか?」
「お前らこういう時は俺に言え! 立てるか? 警察は呼んでないから、さっさと顔洗って戻れよ。忙しいんだからなっ」
早口で捲し立てて大股で店に戻っていく。

俺は隣に向かって声をかけた。
「ところで……お前大丈夫かよ?」
「大丈夫じゃねーよ。口ん中切れた。痛てー」口元の血を拭いながら顔をしかめているのは龍之介だ。

俺より数倍ひどい顔をしている、と思う。弱いって言ったのは本当だったんだな。
それなのに、何で来たんだよ。

そっか……桜の事が大事だから? 俺と桜が切れてないと思ってるからか。

「……俺、桜と別れたんだぜ」
言ったら、「わかってるよ」と少し寂しそうに呟いた。「じゃあ何で来たんだよ?」俺も呟いたら、龍之介が真剣な顔になった。

「お前と桜が別れたって、お前とダチじゃなくなるわけじゃないだろ。そりゃあ上手くいって欲しかったけど……。俺は和香と結婚するからな。結婚式には二人とも呼ぶから、気まずくてもちゃんと来いよ」

……俺はやっと気づいた。

桜が報われないのを分かっていて俺より龍之介を選んで、悔しかったんだ。
情けねぇな、俺。

今まで格好いいとか頭がいいとかちやほやされてきたけど、それをうんざりだと思っていたけど、そんなことを気にしていたのは誰よりも自分だった。
だから俺より劣っている龍之介に負けたのが悔しかった。

龍之介は俺なんかよりずっと、すげぇ奴なのに。
大事なこと、ちゃんとわかってる奴なのに。……俺は馬鹿だ。

「明日顔が腫れて、和香ちゃんに振られても知らねーけどな」憎まれ口を叩きながら、心が澄み渡っていく心地がした。

俺は自分に出来ることをやろう。
龍之介みたいに友達を大切にできるように。誰かを好きになったら、相手を大切にできるように。

「2月14日、バレンタインイベントやるんだ。お前、和香ちゃんと来てくれよ」
今はとりあえず、全力でイベントを成功させる。

それが俺にできる精一杯だ。

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