嘘つきには甘い言葉を
レジに戻ると「あの、予約していた山本です」背の小さい女が二人、俺を見て小首を傾げた。大学生ぐらいに見えるが、頼りなく庇護欲を掻き立てる雰囲気がある。

「ご予約ありがとうございます。お電話でもお伝えしましたが個室のご用意はできませんでしたがご了承ください。ご案内いたします」

予約帳に目を向けるとこの二人はガラの悪そうな男たちの隣の席になっていた。席を変えてやりたいが生憎余裕はない。絡まれないといいけどな。「それではこちらへどうぞ」
俺は先に立って歩き出した。

予想は悪い方に当たって、2人組の女たちはやたらとちょっかいを掛けられているようだった。1時間ほどして料理を運んだ俺が目にしたのは、酔っぱらった男に肩を組まれ泣きだしそうになっている女たちだった。

「大変お待たせいたしました。お席のご用意が出来ましたのでこちらへどうぞ」笑顔を張り付けて俺は女たちを誘導し、入り口近くの席に案内する。「料理とドリンク頼む」と接客中の龍之介を捕まえたら、納得した表情で歯を見せて笑う。

「助かりました。私達……怖くて……」
安堵した表情で女たちはため息をついた。
俺はといえば正直それどころじゃない。予約の席に女たちを誘導したものだから、今からどうやって席を作るか考えなくては。

頭を悩ませていると、太い腕に肩を組まれる。

「にぃちゃん、ちょっと外来いや。来-へんかったらその女たちに代わりに来てもらうからな。おい、帰るからはよレジ来いや。金払わんぞー」
明らかに酔っぱらって臭い息を吐き散らす男は、笑い声を残して出口に向かう。

「あの、私たち……」
困惑した女たちに「大丈夫ですから、お気にならさずに」と笑顔を向けながら内心不味いことになったな、と舌打ちする。
中学生の頃と違って腕力に自信はあるものの、客を殴るわけにはいかない。それに俺が手出しでもしたら彼女たちに被害が及ぶかもしれない。

ちょうどそこへ龍之介がドリンクと料理を運んできたから、俺は耳打ちした。
「警察呼んでくれよ。なるべく早く来るように」
エプロンを外してカウンターにかけ、外で待っている男の後を追う。

店を出ると男たちは俺を認めて、暗い路地の方に顎をしゃくった。
漫画の世界だったらこういう時誰か助けに来たりするんだけどな。それは女がピンチの場合で、俺は男だしそう上手くも行かないか。ボコボコにされて病院送りってのだけは勘弁してほしいんだけどな。

場違いにもくだらないことを考えていたら、後ろから肩を叩かれた。
「お前、何やってんの?」
「一人で行かせられないだろ」
「……喧嘩できんの?」
「いや、俺は弱い。どうせ客に手出しなんか出来ないし、一人で殴られるよりは二人でだろ」
思わず笑いが零れて、振り返った男たちが「何笑っとんねん」と拳を振り上げてきた。

空を切る音だけは鋭いものの、酔っぱらっているからやたらに大振りで簡単に避けられる。
避けてばかりも相手を逆上させるだけで、「すいません。すいません」と謝りながら適当に殴られる。さすがに顔を殴られるのは勘弁だから腕で受ける。
情けない奴だと思って気が済んでくれたらいいんだけどな。幸い腕っぷしに自信があるのは3人だけのようで、残りの3人はニヤニヤしながら眺めているだけだ。

「喧嘩だー! 警察呼んだからなっ」
通行人らしき人の大声に息を切らせた男が殴るのをやめ「こんなとこで捕まってられるか。行くで」とふらつきながら走りだした。他の男たちも続く。
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