嘘つきには甘い言葉を
その後の事は、思い出すと恥ずかしくて仕方がなくて身悶えする。
隼人さんの柔らかい唇が私の全身にキスして、今まで知らなかった快感が引き出されて……。
初めての痛みは想像以上だったけれど、好きな人と身体を重ねることがこんなにも幸せなことだって、初めて私は知ったんだ。

部屋が2つある上寝室は一番玄関側だから、奥のキッチンでの音は彼には届かない。
バレンタインイベントの準備が忙しくてあまり眠れていなかったんだろう。
隼人さんが起きる気配はなかったから、私はベッドを抜け出して朝食の準備をしようと、キッチンまでやって来た。

あ、 そういえば、 昨日はあのまま寝ちゃったからバレンタインのチョコ渡せなかった。
せっかく和香が一緒に作ってくれたのに。

そのおかげで足を踏み出せたのに。

「ありがとう、和香」 と呟いて、 鞄から包みを出す。

昨日買ってきたお米を新品同様の炊飯器で炊いて、お味噌汁と、卵焼き、キュウリの浅漬けという朝食が出来上がる。
隼人さんの家の冷蔵庫には飲み物以外何も入ってなかったから、昨日の残り物で作ったこのメニューが限界。

次に来るときはオリーブオイルとガーリックパウダーも買って来なきゃ、なんて考えて一人で照れる。
ダメダメ、一人でニヤニヤしてるのを隼人さんに見られたらなに言われるかわかったもんじゃないんだから。
そろそろ起こしに行こうかな。

布団を足の間に挟んで心地良さそうに眠ってる隼人さんに近付いて声をかける。「隼人さん、朝だよ」
「んっ……」
目は閉じたままで布団を放り投げたと思ったら、私が代わりに隼人さんの足の間に納まった。顔、近いよ……。

頬が熱くなって昨夜の事を思い出す。キスされちゃうのかな……。そのまま朝から、とか……。あ、なに考えてるの、私。
妄想を膨らませてドキドキしてたのは私だけで、目の前の隼人さんの瞳は閉じたまま。

……。
…………。
もしかしてまだ寝てる?

「隼人さん?」
「あと……5分……」
……そうして彼は私を抱き枕にしたまま、一時間も眠ってたんだ。
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