嘘つきには甘い言葉を
第2章 言いなりの一日
いつもと何ら変わらない朝の憎らしいくらいの秋晴れ、いつもと同じように大学に向かう。偏差値は平均より少しだけ上、お嬢様学校でもない女子大は名前を言っても大抵「へぇ」と言われる。

「おはよ、桜。和香昨日大丈夫だった?」申し訳なさそうな顔で声をかけてきたのは美紀だ。

今日の一限は哲学。内容は難しくてよくわからない上、人が多くてつい皆雑談が多くなる。教授も見て見ぬふりだけど、その分テストは最難関。

大抵の生徒が一回生では落とされるから、こんなにも二回生が多いんだ。

「うん、多分ね」思い出したくないのに。つい声が尖ったけれど、美紀は全く気付かず喋り続ける。

「水無月さんと何かあったのかな? 和香は龍之介君一筋だから、まさかないよねぇ。七海なんかお持ち帰りされてたよ。今日来てないよね? やっちゃったかな。捕まえて聞かなきゃ」

興味は全くないけれど、仕方なく相槌を打つ。「ふぅん。美紀はどうだったの?」

「私は水無月さん押しだもん。昨日は和香と抜けちゃうからがっかりだったよ。連絡先も聞いてないのに。まぁ向こうからしたら、私たちなんて遊びの対象なんだろうけど。あんなイケメンだったら一回きりでもいいよね。で、ホテルには水無月さんいたの? 和香に手出してた?」

聞きたくない、答えたくないことばかり口にする美紀にいい加減苛々してくる。イケメンだか何だか知らないけど、人の事道端の空き缶みたいに扱って、最低エロ男なんだから!

「知らない」ぶっきらぼうに返事したら、「何かあった?」と顔を覗き込まれた。答えられるわけない。

「別に……」
ごまかそうとして目を逸らした時、隣に座る気配がして目を向けると和香だった。
「桜ちゃん、昨日はごめんね。お昼、話せる?」

「和香!! 昨日どうだったの?」興奮して声が高くなる美紀に教授が視線を向けて、私たちは目配せして黙り込む。小声で和香に話しかける美紀を無視して、私はノートを取り始めた。

退屈な授業に集中するふりをしていたけれど、時間が流れるのは遅いなるべく昨日の事は思い出さないようにと思うけれど、くっきりとした二重の高慢な瞳が何度も頭の中をちらつく。

あいつにとって私は遊び相手にすらならなかったってこと? 本当に馬鹿にしてる。
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