嘘つきには甘い言葉を
和香に連れられて地下の学食に向かう。日替わりランチの、一目で冷凍と分かるハンバーグを前に思わずため息。どんな時もご飯だけは抜かない私がいつまでも箸を持たないものだから、和香が心配そうな顔になった。

「昨日は本当にごめんね。あの後何かあったの? こっちは龍ちゃんには全然ばれてないよ。それよりご飯いつにする? って楽しみにしてる。って言っても、さすがにご飯なんて行けないよね……」

良かった。あいつ龍君に何も言わなかったんだ。もしかしたらあの後他の女の子連れ込んで、私たちの事なんてどうでも良くなったのかも。ホテル代真面目に払って馬鹿だったかな。
でも昨日の事は和香にはとても言えないよ。

明るい表情を作ってお箸を握る。「龍君には水無月さん忙しいみたい、とか言っといてよ。連絡先すら聞いてないし、かなりモテるみたいだもん。もう私たちの事なんか忘れちゃってるよ。ほとぼりが冷めたら別れたことにしよ」

「うん……。何か変なことになっちゃってホントごめんね」俯く和香の肩を叩く。
「もう、今日の和香ごめんばっかだよ。もういいから、ね?」

本当にもういいんだ。早く忘れたいし、和香と龍君はいつも笑ってて欲しい。
和香と出会ったのは大学入試だった。
隣同士になって意気投合して、二人とも一つランクの高い大学を受けることを知ってその大学の入試も一緒に行った。

そして見事に二人とも落っこちて、今ここに一緒にいる。
勉強不足だった言い訳じゃないけれど、和香と出会ったからこの大学に来てよかったと思ってるんだ。

真面目で真っ直ぐな和香。和香が龍君の彼女じゃなかったら、私も気持ちも違った方向に進んだかもしれない。

「さーくらっ」
女子大では聞こえるはずのない声が私を呼んだような気がした。
教授や大学スタッフ以外に男の人がいないここでは、若い男の人が私を呼ぶはずなんてない。気のせいだよね。

背中からはやたらに黄色い声が聞こえてきて、目の前の和香は呆けた顔をして私の後ろを凝視している。昨日こんな顔を見たような。あの時、和香の視線の先には……。
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