ポイントカードはお持ちですか?



庁舎に戻って打ち合わせも終え、書類のチェックをしていたらもう定時になってしまった。

「咲里亜ちゃん、今夜は本当に一人なの?」

帰りがけに奈美さんが声をかけてきた。

「せめて相手してくれる店を選んで食事に行こうとは思っています」

「それって〈サードゴロ〉?」

「〈サードゴロ〉です」

「誕生日にスナックって・・・」

「おしゃれな店なんてこの辺ありました?あっても一人は虚しさ3倍ですよ」

「それもそうね」

「咲里亜さんって、今日誕生日なんですか?」

ちょうど私の机に来ていたらしい伊月君が口を挟んできた。

その無表情に他意がないのは明らかなのに、自分の心がすさんでいるから悪意に受け取ってしまう。

「うるさいな」

「何も言ってませんけど」

「これから言うだろうから牽制したの。100円ショップでも売れ残るような三十路だよ」

「100円で俺が買います」

「残念でした。消費税忘れてるよー」

「咲里亜ちゃん、100円ショップでも100円以上する商品もあるんだから、300円くらいにしたら?」

「100円ショップで300円はセレブ感ありますね!だけどみんな100円で売られてる中で『あいつお高くとまりやがって』って売れ残ったら悲しいので、やっぱり100円(税別)でいいです」

「・・・それはともかく、誕生日プレゼントです」

伊月君が突きつけてきたのは、クリップボードに挟まれた書類たち。

「ええー!今?」

これ、結構急ぎだなー。
決済はどうしても明日以降になるけど、回すだけは今日中に回してしまいたい。

はあああ、残業ーー。


「じゃあ、お先に失礼しますね」

そそくさと帰る奈美さんに罪はなくても恨めしい気持ちになる。

「お疲れさまでしたー」

奈美さんを見送って振り返ると、伊月君は自分の席で淡々と仕事を進めていた。

彼は大体いつも残業だ。
土日も仕事に出ているという噂。

彼女もいなそうだもんね!

心の中でさっきの反撃をしっかりして、猛然とパソコンに向かった。



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