ポイントカードはお持ちですか?
2 私は結婚できますか?



水曜日は一応ノー残業デーということになっている。
一体誰が決めたのだろう。

常にノー残業を目指している私はあまり意識したことがないけど、多少その影響はあるらしい。

〈サードゴロ〉はいつもの平日よりやや混んでいた。


「咲里亜ちゃん、ごめんねー。カウンターでいい?」

アマゾンの奥地に咲いている食虫植物みたいな花柄のワンピースを着たみち子ママが、顎でカウンターを示した。
手はグラスの乗ったトレイでふさがっているのだ。

「構いません。一人なので」

7席あるカウンターのちょうど真ん中に座って、忙しそうに料理を運ぶ花柄の背中を眺める。

ここはスナックという看板を掲げているけど、食事メニューが充実していて私のように小料理屋さんとして利用している人も多い。
お酒類はみち子ママが用意して、料理は奥の厨房で旦那さんが作っている。

普段はその分担でうまく回しているのに、今日は一度にお客さんが入ったのか、みち子ママがあたふたと動き回っていた。


誕生日だからせめて好きなものを好きなだけ注文して、ママとお話しながら食べたいと思って来たけど、どうにも無理そうだ。

なんだかついてない。


「お、咲里亜さんお疲れさま」

一番奥のテーブルにいるおじさまが手を挙げている。

「あれ?課長もいらしてたんですか?」

男性4人でミチミチに座っているから気づかなかった。

ここは職場の飲み会でも利用するから、こういうことも多々ある。

「今日はちょっとした同期会みたいなものなんだ。咲里亜さんは一人?」

「そうです。ただの食事です」

誕生日であることはもう伏せよう。
虚しくなるだけだ。


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