ポイントカードはお持ちですか?


伊月君が私の身体をギュッと強く抱き締めた。

「今更だけど━━━━━咲里亜さんが好きです」

落ち着いてクリアな日本語。

きっと今なら「愛してる!」と泣いてすがってくるトップアイドルすら、鼻息ひとつで袖にできる。

「あの日の朝は、選ぶ言葉を間違えたから」

私を支配するのは伊月君の体温と言葉だけ。
全身でそれを感じてから私も答えた。

「私も、好きです」

薄明かりに伊月君の笑顔。
あのきれいな眼球にやさしい表情が浮かんでいる。
もっと明るいところで見たかったな。

「あ、伊月君って私には笑わないよね?それが誤解した原因のひとつでもあったんだけど」

急に笑顔を引っ込めた伊月君は、恥ずかしそうに私の肩に顔をうずめた。

「咲里亜さんが近くにいると思うと、ドキドキして硬くなって何も話せなくなる。他の人で練習したら大丈夫だったけど、咲里亜さんにはやっぱりダメ」

練習・・・思い当たることはあるけど、それってずいぶん失礼だよ。

「なんだかまだまだ知らないことがありそうだね」

「一晩の時間の使い方を間違えた。あの日こうやって話していればよかった」

「今だから言えるけど、あれはあれで幸せでした」

結局私は一度も後悔していない。
これからもきっとしない。


気持ちが通じるって、幸せだ。

そんな当たり前のことが、回り道してようやくわかった。



< 133 / 143 >

この作品をシェア

pagetop