ポイントカードはお持ちですか?
伊月君は困った顔をして、車をコンビニの駐車場に入れた。
助手席のドアが開けられ、雪は消えたけれどまだまだ冷えきっているアスファルトに、伊月君が両膝をついた。
「誰からでも気安く『咲里亜さん』なんて呼ばせたくないから、結婚して〈伊月〉になってください。あと、これ。━━━━━お釣りは結構です」
ポケットから取り出して高く掲げたのは、指輪・・・ではなく110円。
「・・・・・・これで、何ポイントになった?」
片膝ではなく両膝ついてしまったせいで、プロポーズというより神への捧げもののようになってしまったけれど。
律儀に110円なんて、逆にちょっと失礼だけど。
「10000ポイント!よろしくお願いします!」
手の中で110円を転がしながら私は機嫌よくドライブを再開する。
名前の通り安い女。
「それで式場はどういうところがいい?」
「ご飯おいしければどこでもいい」
「和装?洋装?両方?」
「私がきれいに見えればどれでもいい」
「そういうのが一番困るんだけど・・・。何かもっとこだわりとかないの?」
「こだわり?ないない。伊月君の好きにしていいよー」
七夕の短冊に書かなくても、次にサンタさんが来る前に、私は念願の〈およめさん〉になれるのだ。
こだわりなんてない。
一番のこだわりは、もう手に入ったから。
end


