ポイントカードはお持ちですか?

「ありがとう!すっごく助かった!」

伊月君の迷惑も考えず、作業着の腕をギュッと握って想いを伝える。
そういえば、キリンってライオンすら撃退するサバンナ最強の動物だって噂も聞いたことがある。

肉食獣から命を救われたのだ。
勢い余って抱きついたとてセクハラとは言わせない。

「でもこんな資料よく持ってたね?いつ作ったの?」

「昨日です」

「え?あれから?何時までかかったの?」

「12時くらいまでかかりましたけど。でも、それは昨日中に仕上げなきゃいけない設計書が2つあったせいで。そんなに時間はかかってませんよ」

設計書が2つも・・・。

買収する土地や建物の額を算出する設計書は面倒な上に非常に神経を使う。
だからひとつ作るのだって、かなり時間と労力を使うのだ。

それを2つ作った上にこのデータ。

12時という時間は決して早くない。
でもその仕事量、そして伊月君らしく美しい完璧なクオリティ。

いつもいつも残業で、要領悪くモタモタ仕事してると思っていたけど、違ったのかもしれない。


━━━━━実はこの人、すっごく仕事早いんじゃない?


ドッキン。

今、誰か「ドッキン」って言った?

腕を掴んだまま下から伊月君を見上げると、分厚い前髪のカーテンで隠されたきれいな眼球が見えた。

「とにかくものすごく助かった。何でもごちそうするから遠慮なく言って」

なんでもなかったように装いつつ、距離を取る。
なんとなく、肉食獣よりも近づいてはいけない存在のように思えた。

「だったら牛乳屋さんのソフトクリームがいいです」

「へ?」

自分で言い出しておいてなんだけど、伊月君は「仕事だから気にしないでください」って断ってくると思っていた。
だから今度現場に行ったついでにランチでもごちそうしようと、そこまで勝手に用意していたのだ。

だから思いがけず明確に指定されて戸惑ってしまった。


しかも、ソフトクリーム?

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