ポイントカードはお持ちですか?


・・・・・・・・・・・


みなさん、根ってどんな味だと思います?
ちょっと想像しましたよね?
それです。
それに醤油かけた味です。

「おいしい」か「おいしくない」かと聞かれるとぎりぎりで「おいしくない」に入ると思う。
食べられなくはないけど、食べたいとは思わない味。

でも今は「おいしい」の一択しか用意されていない。


今を大飢饉だということにしよう。
松平定信もオロオロ歩いた私の恋愛日照りよりもさらにひどい。
多くの人が死に、作物どころかかわいがっていた飼い犬までも食べてしまったという悲惨極まりない状況だ。

そんな中で、家の床下に眠っていた壷からこの根が出てきたら!

・・・それならば、すっごくおいしいと思う!


「どう?おいしいでしょう?」

私は「大飢饉~」部分を省略して「おいしいです」と答える。
伊月君もふんわり笑顔のまま、

「シャキシャキしていて、根っこ本来の味がします」

ブフッ!
あー、吹き出したら醤油か何かが鼻の奥に入り込んだ!

ここで〈本来の味〉を出してくるとは思わなかった。

伊月君の表情やら何やらで誤魔化されているけど、決して褒めてはいない言葉。
それでも石本さんは満足気にうなずいている。

私みたいに適当に「おいしいです」って言っておけばいいのに、一生懸命嘘のない範囲で考えたんだろうな。


ティッシュで鼻をかみながら、そっと伊月君を盗み見る。

モサッとした髪に作業着。
顔立ちだって決してイケメンというわけではない。

それでも、私にはもう格好よくしか見えない。
伊月君となら、よくわからない根だって楽しく食べられる。


私たちが完食して満足したのか、石本さんの話はようやく終わった。
深く頭を下げてお宅を辞する。


「帰りましょうか」

「うん」


庁舎までは車で10分程度。

その間私は一言も話さずに窓の外を見ていた。
なんとなく、伊月君と一緒にいるこの空間を肌で感じていたかったから。


恋で曇った視界には、秋の陽光がキラキラとまぶしかった。
 



< 39 / 143 >

この作品をシェア

pagetop