ポイントカードはお持ちですか?


だけど根を愛する人っているんだな。

ひからびた小さな幸せを噛みしめる自分と、石本さん(石本さんの生活は私よりずっと充実してると思いますよ!)の姿が重なって、ちょっと親近感が芽生える。

・・・なんか、ありがとうございます!


長い正座と話に疲れ、苦悶の表情を押し殺すことに精一杯な私に対して、伊月君はふんわりとした笑みを絶やさずに根を剥く石本さんに相づちをうっている。

石本さんの中でも私の存在はほとんど消えかかっているようで、言葉はすべて伊月君に向かっていた。


さっき気持ちを自覚したから思うのだけど、こんなやさしい顔を私には見せてくれないんだよね。

私だって、身内に必要以上の愛想はふりまかないから当たり前なんだけど、石本さんにさえ少しばかり嫉妬してしまう。


あのきれいな目にやさしい表情を浮かべて、見つめられてみたいなあ。




「よし!ちょっと待ってね。今醤油持ってくるから」

長らく続いた根の皮むきが終わり、石本さんは立ち上がった。

醤油を持ってくる・・・つまりは、これをごちそうしてくれるらしい。

石本さん曰く本体よりもおいしいという珍味。
今見える状態に食欲は湧かないけれど。

醤油差しと小皿、箸を持って戻ってきた石本さんは小皿にモリッと根をよそい、さっと醤油をかけた。

「はい、食べてみて!すっごくおいしいから!」

つまりはおひたしみたいなものだな。

「いただきます」

「いただきます」

伊月君と二人で根を口に運ぶ。


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