ポイントカードはお持ちですか?

ホラホラ、廊下の向こうから私の絶望がやってきた。

「咲里亜さん、打ち合わせしたいので16時から時間取れますか?」

心臓はドッキンドッキン言っているけど、積み重ねた経験でシレッとした表情を作る。

「はい。大丈夫です。何の案件?」

「これなんですけど、良二さんから俺が引き継いだので」

うん?良二さん?
嫌な予感がする。

私の怪訝な表情より、伊月君は私たちの段ボール箱に目を向けた。

「文具棚までですか?俺が持って行きます」

「あ、わ、私の方は倉庫に運ぶので、咲里亜さんの分をお願いします!」

伊月君は小さくうなずくと、私の手から段ボール箱をヒョイっと取り上げ、

「じゃあ、16時からよろしくお願いします」

と去って行く。

お礼を言うのも忘れて、その後ろ姿をうっとりと見つめる私。
正面をまともに見られないのだから、ここぞとばかりに。

「ふう~」

無意識にため息がこぼれた・・・と思ったら、それは私のものではなかった。

ピンク色のため息をついていたのは、隣にいた風見さん。
・・・これは、そういうことだよね。

「風見さんって伊月君のこと好きなんだ~。お似合いだよ~」と白々しく言えるほど余裕がないので、自虐的な言葉は飲み込んだ。

なんて感傷にひたっている場合じゃない。

「風見さん、ごめん。先行くね。危なくないようにゆっくり運んでいいから」

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