ポイントカードはお持ちですか?

富樫さんの人柄だろう。
当たり障りのない定型文ではなく、正直に言うことが最善だと感じた。

「私、好きな人がいるんです」

「なるほど」

「でもその人とは難しいっていうか、見込みがないっていうか、その・・・ただ私が諦め切れないだけで実際どうこうなることはないんです」

「そう言われたんですか?」

「いいえ。でも、なんとなくわかりませんか?『あーご縁がないな。かみ合わないな』って。白黒はっきりつけるのも、この年になると怖いし」

「当たって砕けるべきだ、とは言いませんよ。それには相応のリスクが伴いますから。もちろん気持ちの大きさとは別問題で」

理解ある反応に嬉しくなる。
「好きならどんなリスクも負えるはず」と言われてしまうとつらい。
今後30年背負うリスクはそんな簡単じゃない。

「結婚はしたいんです。子どもも欲しい。だけどその人のことで前に進めないんです。吹っ切って前に進みたい。そのために富樫さんを利用しようか、とも思いました。だけどそんな不誠実はさすがに・・・」

あははは、と富樫さんは今日一番楽しそうに笑った。

「田山さんから聞いていたけど、本当に面白い人ですね。率直に、とは言いましたが、ここまでストレートだと気持ちがいいです」

「す、すみません」

どうやら言い過ぎたらしい。
えー、だって加減難しいよ。

「お互い恋愛感情はないでしょう。でも結婚に必ず恋愛は必要ないと思ってます。大事なのは信頼関係。私は中村さんとならその信頼関係は結べると感じました」

こくん、とうなずく。
私も富樫さんと〈信頼関係〉であれば結べる。

「私は未来に結婚のないお付き合いはできません。もし中村さんが現時点で私との結婚を考えられないのであれば、今日楽しい食事ができた、というだけで終わりにしましょう。だけど、どんな理由であれ私と結婚するというのなら、私は喜んでお付き合いしたいと思います。それは彼を忘れるための利用でも構いません」

内容はとてもドライなのに、ある種の愛情は感じる。
長い月日を共に過ごせば、恋ではなくとも愛は育つと思える言葉だった。


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