日帰りの恋
「あれが俺の通った小学校。フェンスを隔てた隣にあるのが中学校の校舎だ」

 神田さんは地元を車でまわり、思い出の場所を案内した。
 彼はこの町で生まれ育ち、高校を卒業するまで住んでいたという。懐かしそうな横顔には、普段見ることのない素朴な輪郭があった。

 職場でのスマートな姿も、今の彼も、同じくらい素敵だと思う。
 イケメンで格好いいだけの人じゃなかった。

 こんな彼を、多分誰も知らないだろう。
 神田さんが付き合ってきた恋人達も、同期の江口さんも……

 そう言う私だって、今の今まで知らずにいたのだ。
 だから、こんなに急に素顔を見せられたら戸惑ってしまう。

(そうだよ。ソワソワしたり、ドキドキするのは仕方ないんだから)

 だけど、動揺している場合ではない。

 私はワンピースの膝に乗せた拳をぎゅっと握りしめ、これからの展開を覚悟した。

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