運命なんてありえない(完結)

酒井くんを待つ間に肩から掛けていたカメラを鞄の中に入れ、大きく伸びをしてソファに深くもたれ掛ける










「…ん……はっ…ねてた!」


撮影が終了した安心感から突然襲ってきた疲労感と睡魔に座り心地のいいソファに即行で寝落ちてしまっていた


慌てて体を起こし時間を確認しようとジャケットの左ポケットを探る


「あ、杏さんおはようございます。今18時10分ですよ」


隣から聞こえた低音ボイスに動きが止まる


そこにはニッコリと微笑む酒井くんが座っていて、練習が終わった後にシャワーしたであろうほんのり石鹸の香りに定番デニムと白のTシャツに紺色ジャケットだなんて普段着もいいですね

なんて心の中で呟いてる場合じゃない


「1時間も寝てたなんて…ごめんなさい…起こしてくれたら良かったのに」


恥ずかしさで穴があったら入りたい…なんてつい先日もあったなと思い出す


「気持ち良さそうに寝てたし、可愛い寝顔も見れたし、ちょうど夕飯にいい時間になったし問題ありませんよ」


ニッコリと微笑むその顔が悪魔のように見えます…


「さ、行きましょう」
と立ち上がり差し出された手に手を乗せると軽く引っ張り立たせてくれ、カメラとレンズが詰まった重たい荷物を軽々と自身の肩に掛ける


「あ、荷物重いから私持つのに…」


「ふふっ重いから俺が持つんでしょう」
そう言われるとつい納得してしまうのは筋肉の賜物ですかね


私の手を握り直し出口へと歩を進めるのにつられ私も進む



あれ?手は繋いだままなんですね!?

私の心の叫びも虚しく恋人繋ぎではないものの強く握られた手は離れそうもない




外に出るとまだ外は明るく、季節が夏に向かっているのだと感じさせる


「駅の近くの俺がよく行く店でもいいですか?」

と問われ、迷うことなく頷く。店を決めるのは苦手なのでこうやって提案してもらえるのはありがたい



店までの道のりを手を繋いだまま歩く


繋いだ手から熱が全身を巡り、体中が沸騰しそう


心臓がドキドキしすぎて破裂しそう




26歳にもなって中学生の初恋みたいな体験



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