運命なんてありえない(完結)

〜果報は寝て待て〜



研修の日程も3分の2程過ぎたある日

いつものように昼食を食べた後にグランドへ行くため1階のロビーを通り抜ける



ラウンジで社長の姿を発見した


社長はよくグランドに視察にしているので、その度に会話もする

新入社員の中では社長との距離は近いと思う


今は来客中のようで楽しそうに談笑している



来客の顔を見て俺の足が止まる




日下杏さん





3年が経ち大人びてより一層綺麗になったが、見間違えるはずがない



『果報は寝て待て』



頭の中に拓さんの言葉が蘇る

今彼女の前に出ていっても、彼女は俺のことなんか覚えていないだろうからただの不審者で終わる



俺は止まっていた足を再び踏み出しロビーを通り抜けグランドへ向かう



社長と繋がりがあるとわかっただけでも収穫だ






その日の練習はちょうど終わりがけに社長が顔を出した


練習が終了すると一目散に社長の元へ行き

「社長!お話があります!」

と試合中くらいにしかしない真剣な表情を見せる


少し驚いた表情の社長だったがすぐにいつもの穏やかな顔に戻し「視察室で話を聞こう」と言ってくれた



視察室で社長と俺が向かい合って座り、吉野さんが社長の斜め後ろに立っているという状態で俺は4年前のあの練習試合の出来事から今日に至るまで全てを話した



「日下さんが大也の想い人とはね、不思議な縁だね」

話を黙って聞いてくれていた社長が呟き、目を瞑りしばし思案する



「最近の日下さんは私が出会った頃に比べればだいぶ落ち着いた顔つきになってきたが、君の先輩が言うようにまだ時期尚早だ」


この社長が言うんだから間違いないだろう

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