夕星の下、僕らは嘘をつく
『もう別れたでしょ』
 
はやく打ち切ろうと急いでメッセージを送信した。
こいつと会話していると自分の浅はかさに涙が出る。

こんな奴でも間違いなく好きになってつきあっていたのだ。


『二十九日さ、練習試合があるんだよ』
 
会話がかみ合っていない。
これは意図的にとぼけてるのだろうか。
普段の会話がかみ合わないことはなかったはずだ。

『いやだから、なんで別れたのに応援に行かなきゃならないのよ』
 
文章を考えるのも面倒になって、頭のなかをそのまま送りつける。
すぐ既読になった上に返信が来たと思ったら、サッカー漫画のスタンプだった。
華麗にシュートを打っているその姿が、とてつもなく憎たらしい。
漫画関係ないんだけど。


『だってさ、加藤も工藤も彼女来るし』
 
加藤も工藤も関係ないだろ、と画面越しに突っ込む。
でもそれを伝えたら佐藤や伊藤が出てきそうだからぐっと堪える。

『俺だけ彼女来ないのはずいじゃん』
 
どうでもいい。至極、どうでもいい。
心底呆れたため息が出て、友哉の耳元で聞かせてやりたかった。
 

ほんとうに、どうしてこんな男を好きになったのか謎だ。
もしタイムマシンがあったのなら、つきあう直前の、惚れたらなにもかもがかっこよく見えて舞い上がっている私をど突きに行きたい。


『そんなの知るか』
 
それだけ返信して、ホームボタンを押した。
なにが加藤も工藤も彼女が来るだ。
結局、友哉が欲しいのは私ではなくて彼女という存在だ。

彼女であれば、中身は誰だっていいんだろう。
私を必要としていない。
 

もう二度とあんな奴にのぼせ上がったりするものか。
次はもっと大人で、しっかりしたひとがいい。
しっかりって曖昧だけれど、とにかくあんな幼稚じゃなくてきちんと自分で考えられるひとにする。

たとえば。
 

たとえば。の瞬間に一ノ瀬くんが頭の中をよぎっていった。
だけど私が知っているのは、一ノ瀬くんの姿をした人見浪という男だ。

それにあいつがしっかりしているとも思えない。
腹黒そうというか悪知恵が働きそうというか、すくなくとも友哉よりは思考能力が長けていそうだけれど、それでも理想とする男性像とは全く逆だろう。
 

いや、そもそも次を考えているほうがおかしい。
私はもう、他人と関わって生きたくないのだ。
次の恋愛を考えるなんて、意志が一致していない。

なに私、次の恋に期待しちゃってるわけ。
裏切られたばっかりなのに。
 

気持ちが淀んできたので、もうこれ以上考えるのはよそうと携帯の電源を切ることにした。
叔母の家にいる限りなくたって不便しない。
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