豊中まわり
試合が終わって、慌ただしく片付けていると、何やら声が聞こえた。

見ると、結莉ちゃんが女子に囲まれている。

嫌な予感がする…

足早に向かった。

涼と同じ制服を着た女子が

「氷上とはさ、綾香が付き合う予定だったんだよね。」

と言ったのが、かすかに聞こえた。

えっ!そんなの聞いてない。

そんなわけない。

ていうかあんたら、3人でひとり囲むのどうなのよ。

あぁ。階段が遠い。

するともう一人が

「4月から頑張って声かけて、最近仲良くなって、夏休み前には告白して、つきあう予定だったのに。なんであんたが出てくんの?」

ん?全然付き合う予定じゃないじゃん!

言い掛かりじゃん!

ちょっと待て。

すると真ん中の子が、
可愛い顔で信じられない言葉を吐いた。

「あんたさー。別れてくれない?
私の方が 氷上のこと好きだし、私の方が似合うと思うの。いきなり出てきたあんたに横取りされるの超ムカツクんですけど。
私、入学してからずっと好きなんだから‼」

いきなり出て来て、
言い掛かりつけてんのは
あんたじゃない!

ようやくたどり着き、
止めようとすると、

「別れないよ。」

と小さな声が聞こえた。

結莉ちゃんが、うつむき体を震わせている。

プチんと頭の線がキレた。

穏便に止めようと思っていたが、どうでもいい。

「あなた達何やってるの?」

涼と結莉ちゃんが付き合ってることは 確定した。

邪魔されてなるものか。

「うっさいよ。おばさん」

「大事な話してんだよ」

言葉使い!それでも女の子?

「3人でひとりを脅すような真似、やめなさい!」

「どっかいけよ。おばさん。関係ないだろ?」

関係ありありよ。

顔を上げた結莉ちゃんと 目が合った。
かわいそうに。

いつだって、性格の優しい子が嫌な思いをするなんて 私は嫌だ。
好きだからって、何を言ってもいいわけじゃない。

涼にも問題があるけど、
文句があるなら涼に言いなさい!

結莉ちゃんの前に立ち、
怒りが爆発した。

「う.ち.の.息子の涼は、小5の時からずーーーーーーーーっと、この子が好きなの。涼からこの子横取りするのやめてもらえる?
涼のこと、好きになってくれたのは有難いけど、こういうやり方、涼も私も嫌いだわ。」

言ってやった。

小5からってばらして、後で涼に怒られるかな。

「えっ。氷上…君のお母さん…ですか?えっ?」

残念だけど、そうなのよ。

あなたのお母さんになることは絶対ないけどね。

私は続けた。

「涼が紛らわしい態度を もし していたなら謝るわ。でも、あの子、この子以外好きになった子なんていないはずよ。
あと、せっかく可愛い顔なのに、口が悪いのは残念ね。涼は うるさい子、嫌いよ。
うっさいおばさんからの忠告。」

可愛いいけど憎たらしい顔をひきつらせて、逃げていった。

悪者を成敗して、大岡越前気分だったが、ふと我に返った。

結莉ちゃん、ドン引きじゃないかな…。

振り返ると、口に手を当て 泣きじゃくる結莉ちゃんが、かわいくて仕方なかった。



< 62 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop