晴れ渡る空の下で、君のために風となる。
「中3の時のあの走りがまぐれでした、なんて言い訳は言わせないからな。スランプなんてのは努力で跳ね返すもんなんだ。努力が足りないんじゃないか」


ぐさり。

ぐさりグサリぐさり。

遠慮なく放たれる言葉達は鋭い矢となって、私の心を容赦なく突き刺していく。


「ともかく、地区予選までに調子を上げろ。お前に期待してウチにスカウトした俺達を、これ以上失望させるなよ」


矢が刺さってできた傷から、どろりと黒い血が溢れ出す。

監督に向けて機械的に発した声は、自分の耳には届いていなかった。




目を閉じると、今でも鮮明に浮かび上がる。

中学陸上の集大成となる大会の地区予選で、私は誰よりも速くゴールラインを超えた。


スタートラインに立った時から不思議と緊張はなくて、自分でもびっくりするくらい体が軽かった。

乾いた音が場内に響き渡り、それからは歓声もなにも聞こえなかった。

ただ前を見据えて、0コンマ1秒でも速くそこに辿り着くことだけを考えて。


初めて、自分が自然の一部であるような、風と一体になっているような感覚を覚えた。
< 166 / 386 >

この作品をシェア

pagetop