ホテル王と偽りマリアージュ
「俺は一哉に、社長の座と君、二つを奪うって言ったはずなのに、一哉が守ろうとするのは社長の座だけだ」


唇を噛んで、膝の上でギュッと手を握り締めた。


「いくら愛のない偽装結婚でも、そんなどうでもいい扱いされたら虚しくない?」


要さんの一言一言が、いちいち胸に突き刺さる。


本当は、要さんだって私を引き合いにしてゲーム感覚で面白がってるくせに、と罵りたかった。
黙って俯くことしか出来なかったのは、彼が言ったまっすぐな『好き』が、自分で思う以上に嬉しかったからだ。


一哉のことが好きだと気付いた。
だから要さんの気持ちに応えるつもりはない。


私がはっきりそう言っても、一哉の気持ちが私にないことを知ってる限り、要さんの態度は変わらないだろう。
結局のところ、『相手にされないのに虚しいでしょ?』の一言で終わってしまう。
そして実際、本当に虚しくなると私もわかってる。


「……すみません。あまり仕事抜けられないので、失礼します」


一口だけ飲んだコーヒーのカップをソーサーに戻し、私は椅子から立ち上がった。
仕事を口にすれば、要さんも強くは止めない。


「今度からはちゃんとアポ取るから、ゆっくり時間とって」


ヒラヒラ手を振りながら軽い調子でそう言われた。
私は反応を返さずに背を向け、足早にラウンジから立ち去った。
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