ホテル王と偽りマリアージュ
次世代のホテル王の告白は、拍子抜けしそうなくらいシンプルだった。
だからこそ、難しく考える間もなく、私の心にストレートに突き刺さる。
そのまま一瞬にして浸透していって、胸の奥の方が温かくなった。
全身に行き渡る熱が、私の身体を震わせる。


「一哉……」


心と身体が震えるまま発した声は、やっぱりちょっと震えていた。
鼻の奥の方がツーンとしてきて、瞳にジワッと涙が浮かんでしまう。


「今まで一哉がくれたどんな物より、今の言葉が一番嬉しい……」


必死に笑顔を向けたつもりだったのに、言い切った途端、目尻から涙が零れてしまった。
胸がいっぱいで、彼への想いに弾かれるように、私は一哉の胸に顔を埋めた。


「もう、契約外じゃなくていいんだよね?」


彼の胸元から、確かめるようにそう訊ねた。
うん、と短い声が返ってくる。


「一年後には、またこの街に連れてきてくれるんだよね? ここで一緒に暮らすんだよね?」


半分くらいは自分に言い聞かせるような言葉だった。


私はここで一哉と二人で生活するようになる。
ちゃんと彼の役に立てるんだろうか。
いや、役に立てるようにならなきゃいけない。
そうやって、自分を強く戒める。
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