ホテル王と偽りマリアージュ
「間違いない。ハタチの大学生から見たら、俺は確かにオジサンだね」


罪なくらいの笑顔で、どこまで優しく彼女を交わす。


「きっと、俺よりずっとイイ男が麻里香の元に現れるよ」


一哉は本気で言ってるんだろうけど、私は『一哉以上のイイ男なんて早々いるわけがない』なんて思ってしまった。
それはもしかしたら麻里香さんも同じ気持ちだったのかもしれない。
一瞬だけ一哉を見上げた彼女の瞳が、どこか切なげに揺れるのを見た。


けれど麻里香さんはすぐに胸を張ってふんぞり返る。


「ひ、人前で挨拶程度のキスも恥ずかしがる妻じゃ、一哉はこれからも苦労しっ放しね!」


そう言い切って、いつものお決まり通り、『ふん!』と鼻を鳴らして踵を返すと、カツカツとヒールを打ち鳴らして私たちから離れていく。
その背中を見送ってから、私たちは三人で顔を見合わせてクスッと笑った。


「ま、これで麻里香もきっぱり諦められるんじゃないか?」


さすがに実の兄の要さんも苦笑混じりの溜め息をつく。
チラッと横目を向けられて、私も肩を竦める。
一哉はフフッと笑った後で、要さんに目を向けた。


「それより自分は? 『次の恋に踏み出す為』って。まさかと思うけど、まだ椿のこと狙ってるとかじゃないよね」
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