ホテル王と偽りマリアージュ
それを言うなら私だって、見たわけじゃないとは言え、言い返したい気持ちが込み上げてくる。


それでも、その気持ちをグッと堪えて、そっと周りに目を遣った。
周りから視線を感じないのを確認して、素早く爪先立ちをして、一哉の唇にチュッと軽いキスをする。
そして、見咎められる前に、飛びのくように離れた。


「これでご機嫌直してください」


全米大注目のホテル王のご機嫌直しがキスだなんて、自分でもどうかと思うけど、虚を衝くことは出来たのか、一哉はパチパチと瞬きをしている。


素で驚いてる一哉に、私の方が恥ずかしくなる。
誰にも見られてないよね、と今更ながらもう一度辺りを気にした、その時――。


「っ、一哉!?」


一哉がいきなり私の腕を強く引いた。
そのままたくさんの招待客の間を縫うように、ドレスにもたつく私を引っ張って大股で歩き続ける。


「待って、どこに行くの!?」


自由な片手でなんとか裾を持ち上げ捌きながら、必死に一哉のペースに合わせて足を動かす。
足元が覚束ない状態のまま、一哉は私をつれて格子ガラスのドアを開け、そのまま外のバルコニーに飛び出した。


やっと足を止めることが出来た時には、軽く息が上がっていた。
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