だから今夜も眠れない
部屋に入ると、油絵具の匂いがプンとする。

ああ、懐かしい。

あの時のまま何も変わっていない。

目を瞑るとここで過ごした穏やかな日々が蘇って、泣きそうになる。


♪♪♪


携帯の音で現実に戻った。


洸からだ。

一体何の用?


無言で電話に出ると、一方的に話始めた。

「さやか?俺、洸だけど、

悪いんだけど勝手に部屋入って色々持ち帰らせてもらったから。

ほら、あれだろ?前の男のものとか部屋にあるのもなんだろ?

片付けさせるのも悪いしさ。

あ、かぎポストに入れといた。

あと、金借りた」


「え?」

「借用書書いといたから、確認して?

盗んだんじゃないからな、ってこと。

ヨロシク」

「な、なにいってんの?ちょっと、お金ってまさか?」

「ほらお前が結婚資金って貯めてたやつ。

半分俺のもんでもあるじゃん?」


「何いってるの。あれ私のお給料から貯めてたんじゃない。

洸のお金入ってない」

「だから借りたんだって、ちょっと物要りでさ、

どうせしばらく使い道ないだろう?

あとで返すからっ」



って切りやがった。



勝手すぎる。



洸がお金に汚いことは前から分かってたんだけど、

でも、あのお金だけは手をつけなかった。


いつか二人で結婚式あげて二人で生活を始めるのに使うんだよねって。

増えて行くの一緒に喜んでくれてた。


この間百万越えたって行ったらすごいねって

……まさか?

だから、今だったの?


浮気しても戻ってきたのは、

今度は戻らないのは百万持ち逃げするつもりだからだったの?

目の前がくらくらした。

アリとキリギリスの一場面が頭に浮かんだ。


な、なんてことっ


馬鹿野郎さまじゃん!







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