スーパーヤンキー!!

出会い

「白蘭高校」と書かれた校門の前に立ち、桜さんにお礼を言って、一度深呼吸をする。


「よし、行くか」


先程から「殺すぞ」だの「くたばれ」だの縁起の悪い暴言達が飛び交い、ガラスの割れる音やバイクを乗り回す音が聞こえる校内に目を向け、何の迷いもなく、その校門の中に足を踏み入れる。


校内に入ると、予想通り周りの男達の目は俺に集まる。そんな目線を無視しながら、ひたすら足を進めていると、


「おいおい、誰だこのガキ?」


「随分ちいせぇなぁ。」


「迷子になっちゃったんじゃないのー?」


「大丈夫ー?お母さんはどうしたのー?」


俺は無視して通り過ぎようとしたが、行く手を阻まれたうえに「お母さん」という単語でちょっとイラついた。さあて、どうしてやろうか。


「おいおーい、ビビっちゃってんじゃないのー?」


「ちょっとぉ、なに無視しちゃってんのぉ?」


「っていうか、よく見たらコイツ女みてぇじゃね?実は性別偽ってたりしてー?」


「ぎゃははは!そりゃあいいね!ちょっと確認させてもらおうか」


男の一人が俺に手を伸ばしてくる。はぁ、めんどくせー。俺は軽く溜息をついてその男の手を軽くひっぱたいてやる。


バシッ


「ってぇな!てめぇ何しやがる!」


「おい!このチビ誰か押さえろ!」


「痛い目みねぇと分からねぇみてぇだな。俺様が喝入れてやるよ」


次々と俺の周りに集まってくる不良達。はぁぁ…さっきより大きな溜息が漏れる。さすがにこんだけ集まってくるとやらないわけにはいかないよなぁ。道もだいぶ塞がっちまったし、しょうがねぇか。


俺はじりじりと距離を縮めてくる不良達には目もくれず、ただ前に足を進める。そして……


「オラァ!」


物騒な物を振りかざし、拳をぶつけようとしてくる不良達のみぞおちに軽くパンチを叩き込み、スネに蹴りを入れてやる。俺は喧嘩慣れしてんなぁ。さすがは裏の仕事をこなすだけはあるぜ。


自分で感心しながら、次々に飛びかかってくる不良達の攻撃をスルスルとかわしながら、相手を一発でKOにしてやる。ちょっとやりすぎたかな。でもちゃんと手加減したよな。


気づけば周りには、苦しそうにしている不良達がごろごろと転がりながら、俺が攻撃を食らわせたところを押さえ、呻き声をあげている。


うーん、探すのも面倒だし、ちょっと聞いてみるかな。知ってるといいんだけど。一番近くで倒れていた不良に近づいて聞いてみる。


「あの、ちょっと。浅葱って奴知ってます?今ちょっとその人探してるんすよね」


その不良は少し驚いた表情をしたが、すぐに口を開いた。


「てめぇ、浅葱さんの知り合いか?この学校の"ルール"知らねぇのか?そのまま行ったらてめぇの命は確実に終わりだぞ」


「ふーん、"ルール"ねぇ。で、その浅葱さんはどこにいるんだ?」


「行くのはやめろ。てめぇが行ったらこの学校の全員にとばっちりが来ちまう。そんなのは御免だ」


「とばっちりだと?なんの話だ?それに"ルール"ってのは何だ?ちゃんと説明しろ」


「てめぇ、本当に何にも知らずにここに来たのか?そうだとしたらただの馬鹿だな。"ルール"ってのは、三つあるんだ。まずは一度負けた相手の言う事は何でも聞くこと。そして絶対に逆らわねぇ事だ。それがどんなに嫌な事でもな。二つ目はトップの七人以外は絶対にこの学校の三階には近づかない事。三階全部の部屋はその七人の為だけにある。近づけば何をされるか分かったもんじゃねぇ。そして三つ目。誰かがミスったり、その七人の誰か一人でも怒りに触れちまった時は"全体責任"。全員体育館に呼ばれてその七人にボコられる。今までも何度かあったが、そりゃあひでぇもんだ。ほんとに死んじまうんじゃねぇかと思ったぜ。あと、一度この学校に入っちまったら最後、退学も卒業も出来ねぇ。ここを出ていく事なんざ出来ねぇよ」


「……そうか。てめぇらもよくこんな学校に入ろうと思ったな。マジでビックリするわ」


一通り話を聞いて、状況が最悪すぎる事にテンションがだだ下がりだった。俺がこの学校にいられるのは三年間だけ。高校生の間だけだ。卒業も退学も出来ないなんて勘弁。


まあ、こんなの裏の仕事に比べりゃあ楽勝か。問題があるとすれば、その"七人"をどうやって改心させるかだな。


そんな事を一人で考えていると、


「確かに、皆自分の意思でここに入ったが、大抵その七人の誰かに誘われて入ってきてる。だからこそ、ここに入っちまった事を後悔してる奴もいるんだよ。特に、負けてばっかりの弱ぇ奴はな。毎日毎日パシリばっかやらせれてうんざりしてる」


「そうか…じゃあ最後に一つだけ聞きてぇんだが、ここの奴らは仲間意識とかねぇのか?」


「ふん、そんなもの欠片もねぇよ。殺したってなんとも思わねぇだろうしな。なんでそんな事聞くんだよ?」


俺はその不良の言葉を聞いて何故か安堵してしまった。そしてついついにやけてしまう。


「お前……」


俺の顔を見て驚いたのか、それとも怯えたのか、その不良は俺を見ながら少し震えたような、化け物にでも会ったような声を出した。


「いやぁ、すまねぇな。ちょっとやりやすくなった気がしてよ。大丈夫だ。俺はお前ら不良達を巻き込まねぇよ」


「何言ってんだよ。さっきも言っただろうが。その七人の怒りに触れちまったら全体責任なんだよ。余計なことすんじゃねぇよ」


「だから、大丈夫だっつってんだろうが。俺に出来ねぇ事なんざねぇんだよ」


俺は立ち上がり、三階の方に目を向ける。そして、一度睨みつけてから歩き出す。


「おい!てめぇどこに行く!?やめろ!おい!」


背後から俺を引き止める声が聞こえてきたが、俺は聞こえないふりをした。階段を一段一段ゆっくりと噛み締めるように歩きながら、俺は裏の仕事をする時と同じ表情をしてしまっている事に気がつかなかった。
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