スーパーヤンキー!!
階段を一段一段上がり、三階が近づくにつれて一階や二階とは違った異様な空気が漂い始める。周りの不良達は、俺をチラチラと見ながら必死に目で「三階には行くな」と訴えかけてくる。「"全体責任"になるのは御免だ」と。だが誰も俺を止めようとしない。さっき不良達にパンチや蹴りを入れているところを見られたのはまずかったか。


そんな事を思っていると、ついにしびれを切らしたのか、不良の一人が俺のところに走ってきた。その不良の髪はとても黒くて綺麗だった。耳には月の形をしたピアスをつけている。俺はまた喧嘩でもふっかけられるのかと思ったが、その不良は予想外の事を口にした。


「おいお前!やめとけ!三階に近づくことさえあいつら七人は気に食わねぇのに、三階に行くなんて命知らずにも程があるぞ!」


俺は少し驚いたが、それを悟られないようにあえてふざけた口調で返す。


「へぇ。アンタは俺の事を心配してくれんの?この学校にいんのは自分の事しか考えてない奴だけだと思ってたけど、意外だったなぁ。マジでビックリしたぞ」


「そんな悠長な事言ってる場合じゃねぇぞ!いい加減、自分がしようとしてる事の重大さを理解しろ!」


俺はまともに怒ってくれる奴がいた事に心底安心した。そして同時に、ガッカリもした。


「ははっ、アンタ、ほんとに優しいんだな。でも大丈夫だよ。俺ちょっとくらい本気出しても大丈夫かな?って思ってたのに、アンタのせいで冷めちまった。ったく。勘弁だぜ」


「お前、何言ってる?全然意味がわかんねぇぞ」


「アンタさぁ、俺がさっき不良達とやり合ってる時見てたよなぁ?」


「ああ」


「やっぱりアンタだったんだ。止めてくれないなんてひでぇなぁ」


俺は早くその不良から離れたくて、わざとその不良を軽く睨めつけた。だが、その不良は俺の顔を申し訳なさそうに見るだけで、そこから立ち去ろうとはしない。そして切り替えたように言葉を続ける。


「そんな事より、俺はお前もそうだが、三階にいる七人の事も心配だ。奴らは強いから負ける事はないとしても、人間なんだ。傷つくもんはある」


なんでこういう奴がいるんだよ…ったく。少し悲しそうにしているその表情に気づいてしまい、ますますめんどくさい事になりそうな予感だ。


正直、こんなにまともな奴が一人でもいるとは思わなかった。やっぱ向き合うしかねぇか……はぁ……


「悪いが俺は行かせてもらいますよ。アンタがそんなに心配してやってんなら尚更行かねぇ訳にはいきなくなりましたからね」


チッ、こういう時俺の親父譲りの性格は面倒事を引き受けちまうからいけねぇや。俺はあからさまに嫌そうな顔をしてやった。


その不良に背を向けた後、


「アンタ、名前は?」


疑問に思った事を口にした。この不良の事を知りたいと思ってしまったからだろう。優しかった"あの人"に少し似ていたから----


その不良は驚く様子もなく、


「俺は坂城 真守(さかき まもる)。お前は?」


と、普通に答える。


聞き返された俺の方が少し驚いた。でもすぐに笑みがこぼれる。


「進藤 龍花」


言って、俺は三階への階段を上り始めた。
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