言えなかったありがとうを、今、伝えます。
episode.1✩⋆。˚──はじめましての再会
episode.1✩⋆。˚「はじめましての再会」

2016年9月1日。
バンッ!
大きな音を立てて勢いよくドアを開ける。天馬はまだぐっすりだ。
「天馬ぁ!いつまで寝てんだ!時間ねぇぞ!」
「んあ...?なんだよ、朝早くから...」
「は?今日から学校だぞ?!」
俺はバンッとカレンダーを叩いた。
【9月1日︰始業式 】
「...ああああっっ!!!」
「忘れてたのか?!ったく!」
俺は天馬の準備を手伝い、何とかいつもと同じ電車に乗ることができた。
「はぁ...もう、高校生になってもこれかよ。とても兄とは思えねぇ...」
「いやー、兄っつっても、双子だし~?」
はぁ~っとため息をついたところで、俺らの降りる二つ前の駅に停まった。
いつもここの駅で、友達の、凌ちゃんこと凌平と合流するのだ。
「お!星野ブラザーズじゃん!久しぶり~!」
柔道をやっている凌ちゃんは、相変わらずデカイ体をしている。だが、見た目の割に器用で、人混みの中をするりと抜けて、俺らの方にやって来た。
「あ、凌ちゃん!元気そうだな!」
「まあな!つーか、その様子だとおてんば天馬はまた寝坊かぁ?」
凌ちゃんが笑いながら聞いてくる。
「大正解。まったくもー...」
「うっさいなぁー!」
天馬はベシっと俺の首筋を殴った。
「痛っ!」
そこにはちょうど、小さい頃のケガの傷が残っている。何でケガしたのかは覚えてないけど。
「何すんだよ!」
「まあまあ、落ち着け、2人とも。」
こんなたわいない会話をしているうちに、降りる駅に着いた。
まったく、いつも通りの一日だ。
あの、消された記憶が蘇るまでは。

3人で教室に入ると、既に半分くらいの生徒が来ていた。
「おっはよー!」
凌ちゃんがバカデカイ声であいさつをする。
「お、凌ちゃん!おはー!」
運動神経バツグンの楼莉が駆け寄って来た。
「楼莉おはよー」
「春くん天くん!おはー!」
楼莉はいつでも、みんなに平等に接する。そのため、男子人気は高い。
と、突然、誰かに背中を叩かれた。
振り返ると、クラス一背が低い莉愛が立っていた。
「邪魔!入口で止まんな!」
莉愛は、149cmしかない身長の割に、口が悪い。
ごめんごめんと言って退くと、マジざけんな、とかブツブツ言いながら教室に入っていった。
俺らもとりあえず席につき、カバンをロッカーにしまった。
しばらくすると先生が来て、
「始業式だぞー!並べー!」
と声をかけていった。

***

始業式では、やっぱり校長の長話を聞かされた。
俺はそこそこちゃんと聞いてたけど、後ろに座っていた天馬は爆睡していた。
あんだけ寝て、まだ寝るかよ。
教室に戻ると、ホームルームが始まった。
「んじゃ、ホームルームやるぞー。今日は転校生を紹介する。」
転校生?と教室が騒めく。
先生が廊下に向かって手招きをすると、“転校生”が入って来た。
その姿を見た途端、首筋の傷が疼いた。
「ッ!」
長いストレートの黒髪、触れたら消えてしまうのではないかというほど白い肌、焦げ茶色の澄んだ瞳。
その全てに、どこか懐かしさを感じた。
同時に、恐ろしさも。
何だ?この感覚は。
もぞもぞと疼く傷を、俺は手で覆った。
「皆さん、おはようございます。この度、森咲第二高校に転校してきました、橋本早耶香です。えっと…よろしくお願いします!」
自己紹介が終わると、パチパチと拍手が上がった。
後ろの席の凌ちゃんが俺の背中をつついて、「結構可愛くね?」と囁いてきたが、それどころじゃなかった。

休み時間になると、早耶香の周りには人だかりができていた。
「橋本さん、私、本田朱理!あかりんって呼んで!」
「早耶香ちゃん!俺、健太!よろしくな~!」
「橋本さん!あたしもサヤカっていうの!同じだね~!」
クラスのイケてるグループの人達を中心に、みんなが早耶香に自己紹介をしている。普通の“転校生”として。
俺だけか?こんな感覚にかられているのは。
「あの…」
突然声をかけられた。
顔をあげると、早耶香がいた。
「あ…ああ、橋本さん…。はじめまして…。」
何故か声が震える。
「春馬くん…。私……」
彼女の声も震えている。
彼女も得体の知れないコレを感じているのか…?
「早耶香ちゃーん!」
そのとき、誰かが早耶香を呼んだ。
「…ごっ、ごめんなさいっ!あ、あの、きっ、気をつけて!」
俺が何も答えないでいると、彼女はそれだけ告げて、さっき呼んでたやつのところに行った。
気をつけて?どういう事だ?
もちろん、この時の俺は知る由もなかった。この忠告が、今後の俺の人生を大きく動かすことなど。

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