言えなかったありがとうを、今、伝えます。
episode.2✩⋆。˚──横断歩道と赤の黒髪
episode.2✩⋆。˚「横断歩道と赤の黒髪」

2016年9月10日。
橋本早耶香が転校してきて約一週間が経った。
俺はあれ以来、早耶香と関わるのはなるべく避けていた。早耶香が嫌いな訳では無いが、何となく関わっちゃいけない気がした。
今日は土曜日だから、学校が休みだ。
早耶香と会わなければ、まったく今まで通りなのだ。
はぁー、と深いため息をついたとき、部屋のドアがノックされた。
「春馬ー入るぞー」
「ああ、天馬か。いーよ、入って」
ドアが開けられ、天馬が入ってきた。
その手には、アイスが握られていた。
「隣のおばちゃんがアイスくれたんだけどさ、春馬も食う?」
「もう9月なのにアイス…まあ、せっかくおばちゃんがくれたんだし、もらっとく。」
「チョコとバニラあるけど、バニラでいいよな」
「うん、いいよ。」
俺は天馬からバニラアイスを受け取った。昔から、チョコとバニラのアイスがあると、決まって天馬がチョコを選び、俺がバニラになるのだ。
にしても、このアイスは美味い。
今度おばちゃんに会ったらどこで買ったか聞いてみるか。
「あ、そーいえばさ、何か春馬最近、早耶香ちゃんのことめっちゃ避けてね?あんな見た目も心も綺麗な女の子、滅多にいねぇぞー?話さないとか損っしょ」
「っ…」
言葉に詰まる。まさか天馬にこんなことを言われるとは。避けてるのは事実だけど、何て答えようか?
「つーか、早耶香ちゃん、すげぇ春馬と話したそうにしてんのにー」
答えられずにいると、ベッドの上に投げ出されていた俺のスマホが、ブーブーと鳴った。
ナイスタイミング!
まだ何か言いたそうにしている天馬を手で制し、スマホを掴んだ。
画面には、【平間輝晃】と表示されている。
輝晃は、クラスは違うけど仲良い友達の一人だ。
「もしもし、輝晃?」
『あ、春馬?』
「どーしたー?」
『今日暇か?』
「めっちゃ暇だけど」
『じゃーさ、カラオケ行かね?凌ちゃんも来るよ』
「お、いーじゃん!天馬にも聞いてみるわ!」
俺は電話口を押さえて、天馬に聞いた。
「天馬!輝晃からなんだけど、カラオケ行かね?って。凌ちゃんも来るらしいし」
「おー!行くいく!」
天馬に手でOKとサインしながら、電話に戻った。
「もしもし!」
『どうだった?』
「行くってさ!集合とかどうする?」
『11時に森咲公園でいいか?』
ちらりと時計を見ると、10時40分を指していた。
「了解。じゃ、あとでな。」
そう言って、電話を切った。
「11時に森咲公園だってさ」
そういってリュックにサイフやスマホなどを詰め込んだ。
「OK~!」
天馬は俺が電話している間に準備を済ませていたようだ。
まったく、こういうことに関しては早いんだから、呆れる。
俺らは、5分前には着くように、少し早めに出ることにした。

森咲公園に着くと、まだ誰も来ていなかった。まあ、あいつらは遅刻常習犯だから仕方ねぇか。
待っている間、自転車にまたがったままスマホをいじっていたら、急にお腹が痛くなってきた。
「うっ…」
「ん?どうした、春馬。」
「いや、ちょっと腹痛くなってきて…さっきのアイスのせいかも。」
「あー。ここの公園トイレ無いもんな。そこの交差点の向こうにコンビニ無かったっけ?そこのトイレ借りたら?2人には俺が伝えとくし。」
「そう、だな。ちょっといってくる。」
ギュルギュルと鳴るお腹を押さえ、俺はコンビニに向け、ゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。
はぁ、アイスなんか食うんじゃなかった。
途中で吐きそうになりながらも、何とか交差点までは辿り着いた。
とりあえず、信号が赤だったので止まった。コンビニまではあと少しだ。
しばらく待つと信号が青になったので、俺はまた自転車を漕ぎ出した。
ふと反対側を見ると、誰かが立っているのが見えた。
あれは…
「春馬くん!危ない!」
え?
横をみると、大型トラックが猛スピードで向かってきた。
猛スピードなのに、ゆっくりに見える。
すべてがコマ送りのように。
俺は、傍観者のように、ただただ見ていることしかできなかった。
そして。

ドンッ!

体が自転車から離れた。
一瞬、視界が真っ黒になる。
が、すぐに鮮やかな赤色に染められた。
何が、起こったんだ…?
「子供が轢かれたぞー!」
「誰か!救急車を!」
遠くから大人達が叫ぶ声が聞こえる。
俺は、一体…?
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