海音
17歳
「実佐子どんどん運んで!」

お母さんが珍しく焦っている。
私は空になったビール瓶をケースにしまうと狭い厨房に並べられている大皿を持ち上げた。

長い廊下を進むと突き当たりの部屋から賑やかな声が聞こえている。
少し手前で溜め息をつくと顔に笑顔を張りつけた。

「失礼しまーす!船盛お持ちしましたぁ」

わざとらしく元気に障子を開けると一瞬その場に居る人達の視線が集まる。
男女合わせて20名の団体さんだ。

「おお実佐ちゃん、こっち持って来てくれ」

赤ら顔の和おじちゃんが手招きをした。

「はぁーい」

テーブルの中央に船盛を乗せると横目で明らかに一人だけ場違いな健(けん)を見る。
普段だったらヨレヨレのTシャツかジャージなのに、今日は襟のついたシャツなんか着ちゃって。
私と目が合うと気まずそうに目を逸らされた。

「実佐ちゃんも座ったらどうだ」

和おじちゃんが自分の隣をトントンとたたく。

「そうしたいんだけど、まだ手伝わなきゃならないんだ。飲み物足りてる?持ってこようか?」

「そうか残念だな。じゃあ後で日本酒持ってきてくれるか?」

「うん。わかったよ。」

障子を閉めて廊下を歩いてる間にまた溜め息がでた。

< 1 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop