エリート専務の献身愛
『瑠依、おはよう』
「お、おはようございます」

 電話から聞こえる浅見さんの声は、いつもとなんら変わらない。
 たぶん、レナさんが正体を教えてくれたことを知らないんだ。だとすれば、余計に話を切り出しづらい。

 難しい表情で携帯を持つ手に力を込める。
 当然、私がそんな顔をしているなんて知る由もない彼は、何事もなかったように話を続けた。

『一昨日はありがとう。それと、ごめん。知らない間に寝てて、気づいたら瑠依の姿がなかったから』
「あ、いえ」
『すぐ連絡しようか迷ったんだけど、今日までに仕事終わらせたかったから』
「そう、ですか」

 その仕事ってどんなこと?なんて、簡単には聞けない。
 悶々としてひとこと返す。心に靄が掛かった私とは裏腹に、浅見さんは明るい雰囲気で言う。

『今日、瑠依をデートに誘いたかったから。これからどうかな』

 私、無意識に社内のことをなにか口にしていたのだろうか。それとも、まだこれから探りを……。

 疑心暗鬼になってしまって、返答が遅れてしまう。
 間に、『瑠依?』と名前を呼ばれ、ようやく返事をすることができた。

「は、はい。大丈夫です」
『よかった。じゃあ、どこで待ち合わせしようか』

 膝の上で手をぎゅっと握り、一拍置いて顔を上げる。

「浅見さんの泊まっている部屋まで行っても……いいですか?」
『え?ここに?』
「すみません。確認したいことがあるんです。だから」

 うまくごまかすことも説明することもできず、緊迫した様子で伝えてしまった。
 きっと浅見さんのことだ。私の〝異変〟に気がついたはずだ。

 心臓がドクンドクンと嫌な音を上げている。汗がじわりと滲む手で持つ携帯から、落ち着いた声がした。

『わかった。じゃあ、待ってる』
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