エリート専務の献身愛
「浅見さん!」
「なに?」

 勢いで名前を呼ぶと、街並みを眺めていたらしい浅見さんが、ポケットに手を入れ、こちらを振り返る。

「お蕎麦の代金、ちゃんとお支払いします」

 ゴソゴソとお財布を探り始めた私の手に、浅見さんの手が乗せられる。

「ここまで案内してくれたお礼。それに、デートに誘ったのは僕」

 そう言って、お財布ごと手を優しく押し込められた。

「だけど、私たちはそういう関係じゃ……昨日会ったばかりなのに」
「ふたりで出掛けて、女の子に支払ってもらうのは僕のポリシーに反する。それは、生まれた時から知っている相手でも、今日会った相手でも同じ」

 頑として言われると、きっとこれ以上なにを言っても受け取ってもらえないのだろう。
 そうかといって、すぐにお財布をしまうほど、私はすぐに割り切れない。

 私が困っていると、浅見さんがまじまじとこちらを見るので首を傾げた。

「あ、いや、瑠依の反応って、新鮮だなぁって。僕が知っているのは、ごちそうになるのが当たり前っていうタイプと、奢られたくないってタイプのどちらかだったから」
「あ……す、すみません」
「いや。僕は全然。可愛いと思っただけで」

 女性をさらりと褒めることができるのは、やはり生活環境が日本とは違うからなんだろうか。

 びっくりして動揺しちゃったけれど、すぐに『これは社交辞令』と言い聞かせる。

「そんなことないです。私は、なんにしてもハッキリしない人間ですし」

あ。だめだ。また負の感情が。
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