エリート専務の献身愛
「アッサリしていて後腐れはない性格は、楽だけれど深くは刻まれない。昨日まであった景色が、次の日にはまるで夢だったかのようになくなっている」

 それは、きっと彼の経験なのだと直感した。
 だって、言葉に思いが込められている。どこか淋しそうに感じる微笑みに、よりそう思わせる。

「それまでの現実がなくなる。まるで泡沫みたいに」

 話をしているときには、いつも真っ直ぐ私に向ける黒い瞳。
 けれど、彼の目は私を映すことなく、きっと夜道の景色だって視界に入っていない。

 おそらく、なにかべつのものを見ていると思った。

「成長しないことと、変わらないことというのは、必ずしもイコールではないと思うよ。毎日同じように過ごすことも、努力と忍耐が必要だろうし。それに、オレは変わらない瑠依に目が留まったんだ」
「変わらない……私に?」

 それっていったいどういうことだろう。
 それに、喜んでいいところなのかな?

「頭の中は、今日の仕事でいっぱいで。絶対、つらい日だってあるはずなのに、いつも背筋を伸ばして、意思は前を向いている――すごく綺麗だと思った」
「綺麗!? あ、ありえません!」
「ありえるからオレは瑠依を見つけたんだろう?」

 即答されると返す言葉も見つからない。
 だけど、そんな褒め言葉なんて全然言われ慣れていなくて、疑うほうが自然だし。

 気づけば、いつの間にか浅見さんの顔は私を向いている。
 改めて見た彼は、ついさっきのような微妙な表情ではなくて、極上の笑顔を見せていた。

「いつも変わらずいてくれるっていうのが、うれしく思った。うまく言い表せないけれど……なんだろ。安心感っていうのかな?」

 そんな笑みを浮かべられたら、疑う余地もなくなってしまう。

「どんなになっても、いつもと同じように受け止めて、抱きしめてくれそうだな……って」

 今言ってくれた言葉を、全部鵜呑みにしてしまいそうなくらいに――。

 
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