エリート専務の献身愛
 浅見さんの突然話し始めた内容は、『そうなんだ』と感心させられ、『そうなってみたいな』と羨ましくなる。
 私の羨望感を知ってか知らずか、彼は続ける。

「同時に、切り替えも早い。それは仕事でもそれ以外でも。彼女たちの思考は、常に変化しているんだと思っていた」
「……そうなんですね。比べると、私はまだまだ子どもですね」

 なかなか過去を振り払えず、引きずったまま。精神が弱い今の私は、大人の女性にはほど遠い。

「いいなぁ……」

 自然と口から零れ落ちた。

「どうして?」
「えっ?」

 不意に飛んできた疑問に驚いて顔を上げる。
 暗い車内でも浅見さんの瞳はなぜか光が射していて、一度目が合ってしまうと逃れられない。

「いえ単純に、常に前を見て、その時々の状況に対応して変化できるほどの力がすごいな、羨ましいなって」

 苦笑いして答えると、珍しく浅見さんのほうから視線を外した。
 彼は再びフロントガラスから見える景色を眺める。私は、彼の顔を見つめたまま。

 ほんの少しの間の後に、浅見さんの口がゆっくり開いた。


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