エリート専務の献身愛
居た堪れなくて、半ば駆け出すようにその場から逃げ出す。

彼女は、とても日本語が上手だった。でも、あんな内容なら聞きたくなかった。なんて、立ち止まって盗み聞きしたのは私なのに。

 駅に着いて改札を通り抜ける。ホームに立って、足元に目を落とした。

 あの日もらった絆創膏を、今でも毎日持ち歩いている。

 私が小さなことでもがき、苦しみ、頑張っていることなんて、誰も気づいてはくれない。それが普通で、これからもそうなんだと思っていた。

 まさか私なんかの靴擦れに気づいたり、不器用なりに頑張っていることを認めてくれる人が現れるなんて想像もしなかったから。

 ……だから、うっかり、好きになっちゃったよ。

 現実って容赦ない。
 『好きって気持ちを認めちゃだめ』と戒めていた矢先に、あんな光景を見聞きしてしまって、自分の思いに改めて向き合わせられるのだから。

 そして、好きだと自身に白状した瞬間に、失恋したようなものだ。

 お互いに相手の存在価値を確かめ合うような会話をしていた。

 ふたりは、思いが一緒。繋がっているんだ。浅見さんが今まで私に色々言ってくれたけれど、特別なのはあのレナという人なんだろう。さっき、彼の口からはっきりとそう聞こえた。『ほかとは違う』って――。

 あんなにお似合いなふたりなんてない。

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