エリート専務の献身愛
「あまり無理しないようにね」
「ありがとうございます」

 こんな私を気遣ってくれる紺野さんを、まっすぐ見ることができない。
 私は目を逸らすように深々とお辞儀する。

「そういえば、城戸さん月島総合病院担当になったんだよね? 昨日、辻先生の噂を聞いて」
「え? あ、すみません」

 紺野さんが真面目な顔つきで話しをし始めた矢先、私の携帯が割り込むように音を鳴らした。
 表示を見て、普段滅多に連絡なんてこない同部署の先輩だとわかると、紺野さんに謝って電話を取らせてもらう。

 こんな朝から、しかもメールではなく電話なんて、いったいなにがあったんだろう。

「はい。城戸です」
『あ、真鍋です。城戸さん鍵持ってない? 今会社に着いたんだけど、営業部の鍵がいつものところになくて』
「えっ? いえ、私は持っていないですけれど……。ええ、わかりました。すぐ向かいますね」

 通話を終え、再び紺野さんに頭をさげる。

「紺野さん、すみません。社でトラブルが起きたみたいなので失礼します」
「あ、うん。気をつけて」

 何度も「すみません」と口にして紺野さんと別れると、急いで会社に向かった。

 うちの会社は、まだカードキーなどハイテクなものではない。一般的な普通の鍵だ。

 部署の鍵は、いつも決まった場所に保管することになっている。きっと私が残業することが多いから、真鍋さんは私に電話をしてきたんだろうけれど。

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