エリート専務の献身愛
 昨日は……最後までいたのはたぶん部長。
 しっかりしていそうな部長だけれど、残業は全然しないし、うっかり鍵の管理方法を間違えちゃったとかかな?

 ヒールで走るのは今でも苦手。でも、急く気持ちが勝って、会社の廊下を小走りで向かう。営業部までたどり着いたけれど、真鍋さんの姿が見えない。

 首を傾げ、肩で息をしながらドアノブに手を伸ばす。左に回転させてみると、スムーズに動いた。

「あれ……?」

 思わず声を漏らし、ドアを開けると室内から声が飛んでくる。

「あ、城戸さん! おはよう! ごめんね、てっきり昨日も最後は城戸さんだとばかり」

 デスクの前に立っている真鍋さんが私に向かって手を合わせ、目を細めていた。続けて、奥から声がする。

「申し訳ない。ふたりとも」

 振り向くと、頭を掻いてばつが悪い顔をした部長がいた。

「あ、じゃあ、やっぱり部長が……」

 私の予想していた通りだったんだ。

「昨日、うっかりそのまま持って帰ってしまって。バレたら大変だな」

 眉を下げて笑う部長に、真鍋さんが即答する。

「じゃあ、口止め料でなにかごちそうしてもらおうか? ねぇ、城戸さん」
「え! そんな、私は!」
「冗談だよ、冗談」

 あ……冗談か。いや、そうだよね。

 私は軽く笑い、自席に着いた。その後も、部長と真鍋さんは和やかに談笑を続けていた。

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