人事部の女神さまの憂いは続く
「これ、気付いていただいたの初めてです」
普段する機会もないし、そもそも婚約期間なんてなかったから婚約指輪はいらないといった私に、藤木さんが贈ってくれたのが、この時計だった。
藤木さんがいつもしている時計と同じラインの時計。
恐くて値段は聞けなかったけど、指輪よりももっと高くついてしまったことに申し訳なく思ったことを思い出す。嬉しくて時計を撫でていると
「俺もゆりちゃんとお揃いの時計したい」
と言っておもむろに自分の腕から時計を外す波木社長。
そして私の右腕を取って、それをはめ始めた。恐ろしく高そうなそれに、ぎょっとして突っ込めないでいると
「それの1つ前のシリーズ持ってるから、これでお揃いみたいなもんだね」
波木社長はニコニコしている。
反対に横に座っている藤木さんからは暴君オーラが出ていて、すかさず私の腕から時計を外し始めた。