恋文参考書
再びぱらりとルーズリーフをめくり、章が文字を視線でたどる。
そして無意識なのか、ふいに思いもしないことを口にする。
「お前が書くものは、なんでも面白いな」
「っ!」
「……日生の言葉は、耳に優しい」
もうだめ。
本当に、本気で、耐えられないってば。
耳に優しいってなんだよ。
あたし、別に口に出してないのにおかしい。
君はやっぱり国語の勉強をもっとするべきだ。
そう思うけど、だけど嬉しくて嬉しくて、死んでしまいそう。
一層のこと、すべてをリセットしてしまいたいような、録音しておきたかったような、わけのわからない感情に迫られているみたいだ。
うん、もうね、あれです!
キャパオーバー!
がたん、と椅子の音を立てて立ち上がる。
「そ、そういうのいいから!
あんたは手紙書くんでしょうが!
あたしもまた手伝うけど、今日はもう部室行くからね!」
そう言って、彼の手から原稿を奪う。
ついでに机にあった恋文参考書も抱えこんだ。
「ちょっ、急になんだよ」
「恋文参考書にも書きこんでおくから、借りて行くよ!」
頰が熱い。
燃え尽きてしまいそうで、手に必要以上に力が入る。
「日生?」
困惑した表情の章の視線から、じりじりと後ずさる。
そしてぱっと身を翻し、その場から逃げ出した。
章の声が、その言葉が、頭の中で何度も響いていた。