恋文参考書




あの日、部室にやって来て執筆活動やらなにやらが好きだと言い出したあたしの様子は明らかにおかしかっただろう。

自分でもそう思うのに、詩乃は理由を話したくないであろうあたしの気持ちを察して、肩をとんと慰めるように叩くにとどめてくれた。



そんな彼女の優しさに甘え、さらに原稿を手書きの状態からパソコンに打ちこむ作業を手伝ってもらった。

そのおかげで予定よりずっとはやくに終えることができて、今日はとうとう印刷作業まで進んだ。



水曜日は本来なら活動日じゃないんだけど、部誌の制作期間だけは例外。

曜日なんて関係なく、集まることができる人だけでも作業を進めているんだ。



だから今日、コピー室で印刷しているのはあたしと詩乃、それからふみの3人。

他の部員は用事があるからと不参加だ。



ホッチキスで部誌をまとめるのは苦手なふみだけど、コピー機の扱いは上手。

うちの学校のものは少し古いのに、相性がいいのかなぁ。



でもまぁ、もうすぐ入部してから1年経つもんね。

なにもおかしなことではない。



ただ先輩たちに新入部員? と迎え入れられたあの日。

過ごした日々と、引退した時の切なさ。

もうすぐ迎える卒業の時。

あまりにもあっという間だったと、それだけを思う。



「彩?」



背中から名前を呼ばれ、はっとする。

慌てて後ろを振り向けば、ふたりとも不思議そうにあたしを見つめていた。






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