恋文参考書




「……章?」



もしかして。まさか。

……だけど。



「ごめん、詩乃。
みんなと先に戻っていてくれる?」



図書室に戻りながらそう言えば、直前のあたしの声を拾っていたのか、なんの注意もせず彼女はひとつ頷いた。

ありがとう、と残し、あたしはひとり図書室へと戻る。



「あの、木下先生」

「あら、日生さん。どうかした?
まだなにか作業あったかしら」



不思議そうに小首を傾げている彼女に対し、首を横に振る。

ぎゅうとスカートを握り締めた。



「今、金井って……」



恐る恐る口にした名前にああ! と木下先生が納得してみせる。

手をぽん、と打って可愛らしい仕草で爆弾を投下する。



「そういえば、ふたり、最近よく一緒にいたものね」

「……え⁉︎」



予想もしていなかったことを耳にして、気になっていた章の名前を出した理由についての質問が頭からすり抜ける。

クラス内にあたしたちの間でなにかあるぞというのは広まってしまったけど、それでも共に過ごしている姿なんて見せたつもりはないのに。

それなのにどうして、知られているんだろう。



「別館であろうと、あそこも図書室には違いないのよ。だから司書教諭でもある私は、出入りするあなたたちの姿を何度か見ていたの」






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