恋文参考書
窓際の1番後ろの席から、ちらりと廊下側の前から3番目の席の金井を見る。
校則違反の黒いパーカー姿の彼は教室にはかろうじているものの、うつ伏せて完全に寝入っている。
背中を向けられているというのに昨日の怒った姿がまぶたに浮かぶようだ。
さすがヤンキー、こわかったなぁ。
でも、あれは金井が悪いとは言えない。
明らかにあたしが悪かったよね。
『え、あんたがラブレター⁈』
『……ああ』
『書くの⁈』
『……ああ』
『果たし状じゃなくて⁈』
『うるせぇ!』
思ったことを正直にそのまま告げてしまったんだ。
自分でも思う。
果たし状ってなんだ。
なんでそんな言葉が口をついて出たんだ。
自分宛の手紙はラブレター⁈ なんて浮かれていたくせに。
そもそも金井はそこまで古いヤンキーじゃないのにね。
そんなふうにあたしが空気を読めないせいで、彼は顔を真っ赤にして教室を出て行ってしまった。
ついでに捨てゼリフも忘れてなかった。
『クソが!』
すみません。
いやでもね、あたしの言い方も悪かったけど、まさかラブレター書きたいとか言い出すと思わないじゃない!
あの見た目でうちの後輩みたいな乙女チックワードが出てきたら、そりゃあびっくりするわ!
うっかり口をすべらせもするよ!
だいたい、自慢じゃないけど初恋もまだなあたしがラブレターの書き方なんて知るわけない。
1回も書いたことないし、ラブレターのプロでもないのに教えます! なんて言えないから。
急に言われても責任持てないよ。